理事長ご挨拶
このたび、医療安全心理・行動学会学術総会の理事長を拝命いたしました、早稲田大学の竹村和久でございます。 本学会の運営に携わる機会を賜りましたことを、謹んで御礼申し上げます。
医療安全心理・行動学会は、医療現場における心理的・行動的要因が安全文化の形成に与える影響を探究し、 医療の質と安全の向上を目指す学術団体です。医療従事者の日常的な意思決定や行動、チームワーク、 コミュニケーション、組織における規範形成などを行動科学の視点から理解することは、 安全文化の基盤を確かなものとするうえで重要であると考えられます。本学会では、 医療分野のみならず心理学や行動科学、 社会科学など多様な専門領域の知見を結集し、学際的な取り組みを進めております。
私は、これまでに行動意思決定論(behavioral decision theory)という分野で人間の意思決定を研究してきました。 人々がどのようなときに誤った判断を行ったり、意思決定をするかということを心理学的に検討してきましたが、 医療安全心理にとってもなんらかの示唆を与えることができればと願っています。行動意思決定論は、 リスク研究、実験心理学、行動経済学、神経経済学、ニューロマーケティングとも隣接した分野であり、 近年では、その下位領域として医療意思決定(medical decision making)という領域があります。 欧米では多数の研究者が活躍しており、本学会との接点も多い分野だと思います。
医療の安全は制度や技術の整備に加え、人の認知や判断、行動の特性への理解を踏まえてこそ 持続的に発展すると考えられます。本学会の総会を通じて、行動変容の理論と実践、 ヒューマンエラーの予防、組織における意思決定過程、 安全文化の形成に関する知見について、実証的視点に基づく議論が深まることを期待しております。
本学会が、医療安全の推進に携わる皆様にとって、有意義な知見の共有と新たな示唆を得る機会となることを願っております。皆様のご協力を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
2026年4月
医療安全心理・行動学会理事長
竹村 和久(早稲田大学文学学術院・意思決定研究所)